Dragon Island

日々是修行。

『檸檬』

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こんにちは。
ポケ森が秋のカラーリングになったおかげで、梨の実が見づらくなったKei Alexです。
色がとても似ているのです(笑)。

こういうのは老眼の域かもしれないと勝手に解釈して、注意深く気に留めるようにしています。

歳をとって、自然の摂理による衰えを感じる機会が増えてきて、少しずつ、色んなことを諦めなければいけなくなってきたのですが、それが今の僕には、想像したよりもずっと楽な気分でした。

こんなにのんびり構えていられるのは、現在、色んな商品やサービスが生まれていて、お金こそ必要ですが、自分が頑張らなくても生きていけるからです。
40年前の40歳は、こうはいかなかったです。
ほとんど全部自分でやらなければいけませんでしたし、サービスを受けられる時間も今よりずっと短かったです。

そういうわけで、早々と隠居ジジイのごとくのほほんと生きています。

前置きが長くなりましたが、今回は、今週のお題「読書感想文」です。

梶井基次郎檸檬

こちら、青空文庫で読めますので、気になった方はどうぞ。

www.aozora.gr.jp

僕はこれがとても好きなのです。

とても短い文章で、ちょっとした、一時の妄想をそのまま書いたような、今でいう同人SSみたいな雰囲気がする小説です。(もちろんしっかりした作品なんですよ)

そういうニオイがするので、僕はこれが好きなのかもしれません(笑)。

梶井基次郎という作家を、実はほとんど知りません。
檸檬以外に読んだことがなく、いつもこんな調子なのか、たまたまこの作品がこうなのかもわかりません。

でもこの作品は好きで、それは僕が隙あらば妄想を巡らせる習慣があるからだと思います。
勝手な親近感です。

この『檸檬』は、ちょっとアンニュイな雰囲気を醸し出しつつ、実際は愉快な空想を展開して、ちょっとスッキリしたという一連の遊びが綴られています。

主人公は、その日、不吉な気持ちに襲われて、気分転換に外出します。
こんなところに行きたいなあという妄想を膨らませながら歩いていると、とある店先が目に入り、珍しく「レモン」を買って、香りや冷たさを味わっていました。
それからも様々な記憶が空想と結びつき、気分が上がってきた主人公は、ふとした気持ちから書店「丸善」に立ち寄ります。
ところが入ってみて、コレジャナイと気づいた主人公は、あれこれした末に、棚から本を抜き出し、それを次々積み上げていきます。買うでもなく、中身を確かめるでもなく、積み上げるためだけに抜き出し、表紙の色の組み合わせが気に入るまで入れ替えて、「そうだそうだ」と懐にしまっていたレモンの存在を思い出し、それを本でできたタワーのてっぺんに乗っけるのです。
レモンを飾って完成したブックタワーにしばらく見入っていた主人公ですが、ふと、あることを思いつき、そっと書店を後にします。
作り上げたブックタワーはそのままです。
そして、自分の妄想に微笑みを浮かべて去っていくのでした。

おわり。

檸檬』のここが好き

一見すると、ちょっとアレな男が本屋で悪戯してコソコソ出ていき、ニヤニヤしながら立ち去るという、ろくでもない話に見えます。
時代に関係なく怒られ案件ですよ。

僕が『檸檬』を好きなのは、主人公の頭の中が面白い……興味深いからです。
空想の極めつけ、「丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けて来た奇怪な悪漢」という一節は、何度読んでもつい笑ってしまいます。
レモンを爆弾に見立てて、それが「もう十分後にはあの丸善が美術の棚を中心として大爆発をする」ことを想像して、主人公は笑ってしまうわけですが、そこで僕も一緒になって笑ってしまいました。

ありえないんですよ?
レモンは爆発しないし、仮に破裂しても「丸善」は「粉葉(こっぱ)みじん」になったりしません。
現実に破裂したとして、飛び散ったアルカリ性の果汁によって、売り物である本が変色したり、糖分でベタベタになるぐらいです。いえ、これも十分すぎる被害で、今ならネットで大炎上する悪質な悪戯なんですけども。

でも、主人公は、もしもそうなったら「どんなにおもしろいだろう」と思うんです。
それを「聞いた」僕も、そこで「ふふっ」て笑ってしまうのです。
あり得ない、起こりようがないから、面白いし笑うんです。

そんな、小説の中の空想の世界が面白くて、僕は『檸檬』が好きなのでした。

(いや……本当に梶井基次郎が本屋で同じことをしたことがあったのだとしたら、ちょっとアレなんですけど……そこはあの、作家と作品はベツモノってことで……)


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